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愛知産業大学通信教育部 山口雅英のブログ

カテゴリー : 絵画制作における即興性 の記事

絵画制作における即興性7

何気なく歌を歌う。別に特別な想いがあって歌い始めたわけではないのに、歌っているうちに某かの心境になってくる。想いが生じてくる。そんな経験は誰でもあるのではないだろうか。歌には音楽にはそういう力があるのである。

ある視方をすれば音は音楽を作るための「材料」に過ぎない。楽器は音楽を作るための「道具」に過ぎない。人間の、「こんな音楽を作りたい」という想いを実現するための手段に過ぎない、と。間違いではない。しかし別の視方をすれば、音そのものが、楽器そのものが人間の精神に働きかける力を持っている。人間はそれに触発されながら、その助けをかりながら音楽を作っている。単なる手段ではなく、創作のパートナーと言える。

絵画においても同じである。カタチや色、構成はそれ自体が表現力を持っている。その表現力を十全に自身の表現に活かせる力。造形が、そういうものであると感じる力、信じる力。 信じることは容易いことではない。視ること、現すこと、その経験を多く積むなかで育まれるもの。

絵画制作における即興性6

音楽においては聴くことが、絵画においては視ることから全てが始まる。聴き、視て、心に響かせることによって「想い」が生じる。このことは作品を構想する段階のみならず、作品制作のあらゆる段階で起こるべきこと。想いがカタチになり、そのカタチに触発されさらなる想いが生まれる…。まさに何かが生まれる現場としての作品制作。

極論を言うなら、「こんな作品を作りたい」という構想など持たなくても作品を作り上げることができる。何気なくスタートしたとしても、「視る、視て触発される心」さえあれば制作していく中で想いは育まれ、その想いによって作品は作られていく、そんな制作は可能なのである。

絵画制作においてあらかじめ、作品の構想、イメージ、意図などなくても良い、ということを言おうとしているのではない。むしろ、私はどんな作品が良くないかと問われれば「闇雲で、行き当たりばったりで描かれた、想いも意志も希薄な作品」と答える。

しかし作品の完成までの全てを構想しきって制作に臨むことなど不可能である。あらかじめ構想した通り、設計図通り制作する工業製品の製作とは訳が違う。あらかじめ作品についての構想をしっかり持っていようが、なかろうが、作家は制作プロセスの中で常に作品についての構想、作品についてのイメージを更新しているのである。当然、当初の予定とは変わってくることも往々にしてある。いい加減と言えばいい加減、曖昧と言えば曖昧。しかしそれが機械ならぬ人間がやっていることの証。置かれた状況の中で様々な刺激を受けながらいろいろに感じ考えている人間の営みであることの証。制作のあらゆるプロセスにおいて、常に「イメージの新陳代謝」が行われていると言ってもよいであろう。考えてみれば人生は正にそうで、生まれた時に決めた通り、決められた通り、死ぬ迄生きる人などいない。常によりより方向を目指し、自らの人生についてのイメージを更新していく。人生の在り様の縮図としての絵画制作。

絵画制作における即興性5

「即興」における「興」。それは何かに触発されて生じてくるもの、何も刺激のないところに興は生まれない。

「興」を、とりあえず「何かを面白いと思う心」としてみる。いろんなものに触発され何かを面白いと思う心が生じ、それを表現したいと思う心があって制作に臨むというのは自然な流れだと思う。しかし、極論すれば、表現において、最初に「興」などは必要ないのである。制作プロセス、材料、技法そういったものに「興」を触発する力があるのだ。

道具や材料は何かの目的を達成するために、人間の脳から指令を受け、身体的作用を受けて使用される、受動的な存在である。しかしそれはあくまで目的と目的達成の計画が明確な活動においての話。絵画制作のように目的や計画性が明確でない活動においては、時として想いもよらなかった道具や材料、技法の効果に出会うことが少なくない。それは造形との新鮮な出会いであり、新鮮な出会いこそが「興」を触発するなによりの要因となる。ここにおいて人間は、道具や材料、技法から刺激を受けとる「受動的」な存在となる。「受動的」というと何やら主体性がないようであるが、実は創造的な活動においては、「受動的」になるということは重要なポイントであり、より善く受動的になる姿勢、思考を間なぐことが大切である。

絵画制作は、とかく「描く」という能動的な部分がクローズアップされるが、実はそれと同じくらい、あるいはそれ以上に受動的なスタンスが重要である。

 
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